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2011年を振り返って/2012年の抱負(暫定版)
 
   金子格 個人ホームページ http://www.it-aru.com/    
   


日記を書くほどまめではないが、何もせずに歳を重ねていけるほどほど潔くもないので、年に一度、前年の出来事のまとめと今年の展望を書いている。

これを他人が見ても多分あまり面白くないだろうが、お正月に暇な人などのために公開している。ちなみに、本人が見ると、「ああ、このころはこんな事を考えていたのだなぁ」などと思い出されて結構面白いものである。

といっても毎年元旦には完成した例しがない。それどころか、次の年まで暫定版のままであることが多い。2011年末も事情により旅行中で現地の30日11:00PMから書き始めているが、あと1時間くらいでupしないと1月1日にまにあわない。と、いうわけで、またまた暫定版。

2011年を振り返って

私事
ことしはニューヨーク

テクノロジー
原子力

環境問題
節電

 

2012年の抱負

経済
デフレ終了に備える
企画
非常時の著作権、プライバシー
大学
講義
災害
脱原発
500年に一度の災害



・今年はニューヨーク

実は夏にはチューリヒ、年末はニューヨーク観光と2011年は毎休みに海外観光している。もちろん行きたいから行くわけであるが、多少他の意図もあった。2011年3月震災後の原発の安全性への信頼低下による原発の運転停止で、東京電力サービスエリアは夏も冬も電力不足になった。現状電力不足は国内だけの問題だから一家庭でも海外ですごせば、多少は電力不足が解消する。他の方法でも20%ほど節電して、当家は昨年度比3月は45%、7月は30%、以後30%の節電達成した。12月以後も30%節電達成の見込みだ。なお、成田までの移動(NEX)の電気代も一応計算したが、一人あたりはたいしたことがなく、節電効果の方が大きいはずだ。

また、現在76円という円高だ。海外で景気よく円を消費すれば、円高対策にもなり、一石3鳥というわけだ。

お金を使うといっても、エネルギーを浪費する消費は今の時代に合わない。美術館めぐり、ブロードウエイ、ニューヨーク・フィルの鑑賞、各種のイベントなど、こまめに、効果的に、お金を消費するよう心がけている。チャリティオークションで某俳優が10000ドルでキスをオークションにかけていて、ちょっと迷ったがこれはさすがにやめた。一応寄付の領収書はくれるとのことであるが、確定申告で日本の税務署に説明するのが難しそうだ。

 

・原子力

昨年は高速炉に期待する一文を書いた、2011年は歴史的津波により福島第一原発が壊滅的な被害を受け、原発への信頼はがた落ちだ。もともと、私は原発が安全だとも、無条件に推進すべしとも思っていなかったが、これを受けて日本の世論は脱原発にかなり傾いている。

いろいろな議論があるが、原発のメリット・デメリットとも国民をあげた議論は行われてこなかった。そもそも、原発を運転するメリットの方は正確に理解している人はほとんどいないようだ。専門家だけが判断するのではなく、メリット・デメリットをきちんと説明した上で、国民的に判断すべき問題だ。

2011年現在国内で進んでいる、なし崩し的な「脱原発」は倫理的にきわめて疑問だ。

2011年におこったことは、製造業の急速な海外移転による節電による原発停止だった。海外での電力消費効率は日本より低く、この対策は電力を浪費し、地球的には原発依存を高めてしまう。中国が現在計画中の100機の原発をさらに増設する結果になる可能性はかなり高い。

日本人の居住地域から原発をちょっと遠ざけることが目的であればよいが、これでは東京から遠いところに原発を設置するというこれまでの身勝手な解決方法の延長でしかないだろう。

世界的に、原発事故の危険を減らし、生活レベルを維持しつつ脱原発を目指すのであれば、まずはここ10年で使えるエネルギー源や、各国の精算設備のエネルギー消費効率をよく確認し、「脱原発の気分」ではなく実効性のある原子力安全性向上戦略へと早く方向転換するべきではないか。

核の安全保障のために必要であるという面もきちんと説明されていない。国内で再処理はほぼ絶望的だが、これも核の安全保障という面で問題だ。原発は型式により核兵器に転用できるプルトニウムの生産能力に差がある。現在世界の原発で高い市場占有率を誇る日本製原発はもちろん、核兵器への転用が困難なタイプである。しかし、プルサーマル処理をきちんと行えば核兵器に転用可能なプルトニウムはさらに減少し、ほぼ兵器利用が不可能な放射性物質だけが残る。1980年代に比べれば核戦争への緊張はかなり低下したとはいえ、世界において核兵器の悲劇をきちんと理解しているのは日本だけだ。核戦争の防止に日本が全力を尽くし、2度と核兵器が使われなくなるようにすることは、日本人に与えられた責務ではないかと思う。



 

・節電
3月11日以後電力供給が急減し、節電を余儀なくされた。


最初に断っておくと、長期的には国内の家庭で使用する電力の不足はそれほど心配がないと考えている。それは家庭での電力は意外と無駄が多く30%程度はすぐに節約できるからだ。が、それ以上に原発が稼働しなければ、日本の電力費用は海外にくらべ極端に高くなり、電力を使用する産業は自動的に海外に移転することになるからだ。製造業の電力需要は全電力の5割以上なので、製造業の半分が海外移転するだけで、原発分の電力が減少する計算になる。

それはさておき、この冬までは本当に国内の電力が不足していたので、我家でも節電に取り組んだ。その結果わかったのは、「節電ってなんて簡単なんだ」。以下だけで30%の節電(ピーク時45%節電)が達成できた。

対策1: ガスで調理
4月までは炊飯器のかわりに鍋で炊飯、トースターのかわりにフライパンでフレンチトーストを作っていた。フライパンでトーストも焼けるんであるが、どうせフライパンで調理するならフレンチトーストの方がゴージャスだ。

対策2: エアコン室外機の斜め置きと遮光シート
エアコン自体も新型に交換したが、NHKのあさイチで紹介していた節電策のうちエアコン室外機のすご技「室外機を少し斜めにする」を実施した。

http://www.nhk.or.jp/asaichi/2011/05/31/01.html

これに加えて室外機の上に遮光シートを設置。

対策3: 省エネ照明への切り替え

LEDだろうと思う人もいると思うが実は、スパイラルパルック。実はこっちの方が光量あたりの電力は少ない。

http://ctlg.panasonic.jp/product/lineup.do?pg=03&scd=00005851

LEDと比較すると以下のように約30%スパイラルパルックの方が効率がよかった。かつ値段は1/3だ。

スパイラルパルック 114lm/W

LED 81lm/W

対策4: VTRの待機電力カット

NHKでも紹介していたが、最近の家電製品では待機電力は0.5W程度で待機電力カットはほとんど効果がない。というわけで当家でも何もしていなかったが、どうも全家電をOFFにして電力系を見ると40W程度回転している。サーバーとルーターは常に稼働しているので、それかなぁと思っていたら、実はVTRだった。VTRの電源コンセントに元切りスイッチいれたところ、全家電OFF時の電力メーターの回転数は10W程度に。計算してみるとこのVTR, 5年間ほとんど動かしたことがなく軽く10000kWhは無駄に消費したことになる。

ただし、VTRの待機電力がおおいのは訳がありそうだ。たしかヘッドをヒーターで温めておかないと、テープが巻き付いてしまう場合があると聞いたことがある。使用するのは電源投入後数時間待ってからにした方がよさそうだ。

以上の対策で、4月以後の電力消費はコンスタントに前年比-30%。なんと簡単だったことだろう。震災がなければこのまま3割増しの電気代を払っていたわけで、震災さまさまである。



 

 

・デフレ終了に備える
デフレ終了どころか、世界的にデフレ傾向である。しかし、いぜんとして円での資産運用はしていない。

個人的には、ある資産が暴落した時に、反発力があるかどうかが、その資産を保有するかどうかの判断基準になると考えている。今後円安インフレが急速に進行した場合に、どのような反発力があるのかがよくわからない。年金資産保有者は資産価値の低下を恐れて外貨への交換を進めるのではないか。企業にとっても円を保有するデメリットが増える。唯一の反発力は、円安による輸出増だが、現状のスピードで日本企業の海外進出が進めば、円安と輸出増の相関はほとんどなくなる。ソニーや日産など主要企業の中にはすでに輸出、輸入はほぼバランスしている企業が多い。反発力が期待できなければいくら総体的に価値が上昇していても安全資産としては信頼できない。今年も円の保有率は最低レベルにキープする予定だ。


 

・非常時の著作権とプライバシー
2012年5月の研究会(EIP56)では、非常時の著作権とプライバシーというテーマでワークショップを企画した。

こういう議論はした方がいいのかしない方がいいのかかなり悩んだ。余計なことを考えると、いざというときに身動きが取りにくくなってしまうという弊害もある。一方でどんな非常時でも成り立つ「原則」的なものを確認しておけば、その場で敏速に的確な判断を行うのに役立つ。役立つのは、わかりやすく、明確で、人間性の原則に基づいたルールだと思う。それを探るために、今回の記憶から多くの教訓を引き出したい。


 

・脱原発

国内原発の停止は何をもたらし、脱原発にどの程度効果があるだろうか。これがとても疑問である。

2011年、海外への生産移転と海外投資は、過去最高だった。国内の製造業のエネルギー消費量は20%程度減少したが、現状のやりくりを長期的に続けるのは無理で、長期的には製造量自体20%程度減少する方向に向かうと推測している。

減少した生産量は主にアジアで代替されているが、中国、ベトナムとも現在電力はぎりぎりの状況で、今後の経済発展にむけ原発の建設が盛んである。これらの原発の建設を前倒しすることで、日本の原発停止分が代替えされることになるだろう。

化石燃料、自然エネルギーを予定より増やすという計画もあるが、この実現性はとても疑わしい。化石燃料価格は欧州危機がされ景気が回復すれば、新興国需要を見込んで最高レベルに達するはずだ。中国はそもそも、すでに大気汚染がひどく、環境対策の遅れに対する市民の怒りも限界に達しており、むしろ今後石炭火力の廃止が加速する可能性の方が高い。

自然エネルギーも死屍累々だ。1820万kwのピーク発電量を誇る中国山峡ダムは地震、洪水と想定外の災害の連発にみまわれ中国の福島原発化している。中国は10年間で20000万kwの電力供給増を必要とし、自然エネルギーで原発と同じ10000万kw程度を確保する計画だが、その多くは実際には原発に頼らなければならなくなるだろう。

こういう状況下で、国内の原発停止は、脱原発にいささかの貢献があるだろうか? 私はとても疑わしいと思う。むしろ日本が原発事業から撤退してしまえば、国際的な原発産業における発言力が低下し、中国が主導する原発産業が確立するだろう。

中国とて、世界の核戦争のリスクが増大することを歓迎することはないだろうが、日本人としては、核の悲劇を二度と起こさないため、少しでも原子力産業の中でその知恵と熱意を核戦争防止のために発揮したいと思うのである。

おまけ:太陽光発電であるが、とりあえず現状どの予測を見ても太陽光発電が今後10年以内に、いかほどでも世界のエネルギー需要に貢献するという予想はない。ちなみに原発20機分の太陽電池を5年で製造するには原発20機分の5年間の全発電量が必要と言われている。これではまさに太陽電池、5年間投入した電力を残り5年で取り出すことしかできないので、10年以内に原発を減らすにはあまり役立たないことが明白だ。

それではどうするか。

(1) 安全性の確認された原発は稼働する

これにより、日本の原発1機につき最低でも海外の新規の原発1機の建設を抑制できる。また、国内の方がエネルギー効率がよいから、うまくすれば原発1機を稼働させるごとに海外の原発1.5機程度の新設を抑制できる。

(2) 安全性を高める

今後20年程度は単純に原発を止めると、かえって後で原発を余分に建設することになる。したがって、安全性を高め、稼働率を上げる。

(3) 核兵器転用防止策を強化する

今後20年はこれまでにないほど稼働する原子炉が増え、世界各地に普及する。再処理は経済性のためには無用だが、核兵器に転用可能なプルトニウムの量を抑制するために必要かもしれない。高速炉の開発や、再処理サイクルが核兵器への転用防止に有益ならば、ぜひ安全保障のため、経済性にかかわらずきちんと処理すべきではないか。

(4) 代替エネルギーの開発

太陽電池その他の代替エネルギーの研究開発には注力すべきである。しかし、研究開発に必要以上の大金をつぎこんでもあまり効果はないし、実用性がない段階でのパイロットプラントなどなんの意味もない。

毎年、ベスト100の研究成果に資金を出すなど、研究開発を加速する方が得策だ。

発電設備の交換は、どんな技術であっても20年程度かかる大事業である。参考になるのは戦前、戦後の電力事業の歴史だ。実は日本において電力が安定して十分供給されるようになったのは、現在の地域電力会社の体制が確立してからだ。これが最高ではもちろんないが、わざわざ過去に失敗した体制に戻すことはない。今回の失敗とともに、過去における失敗もきちんと見て、効率的で信頼できる電力事業の制度設計を行う必要がある。

 

 

・講義

工芸大学の授業も8年目突入。

いまだにちょこちょこ改良を続けている。今年は、プログラミング基礎のスライドに動画をかなり追加した。->動画を使った部分はこちら

昨年までの授業だと、このへんですこしダレ気味だっただ、今年は順調だ。

->金子の講義資料はこちら